私が足の外科医を志したのは24年前である。上司から「足関節鏡の安全な刺入点を明らかにする」という課題を与えられたことがきっかけであった。当時、足関節鏡はようやく行われはじめたばかりであり、技術的には確立された手技とはいえなかった。解剖学教室に出向き、足関節鏡の刺入点周囲における神経や血管の走行を調査し、安全に手技を行う方法を模索した。この研究は私の学位論文となり、それ以降、私は「足関節鏡」の魅力にはまっていった。

小さな術創から、正常な組織をできるだけ損傷しないように病変部にアプローチして治療する術式を、最小侵襲手術(MIS: Minimally Invasive Surgery)という。関節鏡視下手術は、MISの1つであり、術後の痛みが少なく、早期に社会生活やスポーツ活動に復帰できる利点を有す。1982年から1984年にかけて、アルペンスキーヤーのSteve Maurer、女子マラソンのJoan Benoit、女子体操のMary Low Rettonが、いずれも膝半月板損傷に対し関節鏡視下手術をうけ、それぞれ術後11日から1ヵ月で競技に復帰し世界チャンピオンになったことで、関節鏡視下手術は世界に認知されるようになった。私が足関節鏡に出会ってから四半世紀余り、足関節・足部疾患においても、多くの研究者や臨床家の努力により鏡視下手術は大いなる発展を遂げ、現在では診断や治療に必須の手技となっている。

一方、MISで対応できる病態は限られている。足の疾患は多種多様であり、一人の医師の力では、全ての足の疾患に対し最高の医療を提供することはできない。そこで、CARIFASでは、日本および海外のトップサージャンの先生方を特別顧問(Special adviser)としてご招聘し、診療、研究および若い医師の教育にご協力いただける体制を整えた。

CARIFASは、足関節・足部疾患に対して最先端の治療を提供するだけでなく、足の外科の発展のために臨床に根ざす研究を行い、世界に通用する優れた足の外科医を育成する目的で創設された。日本の特別顧問の先生方による専門診は平成30年4月から開始する予定である。また、海外のspecial adviserの先生方には、平成30年度以降、短期留学の受け入れや来日しての教育研修講演等、若い足の外科医の教育にご協力いただく予定である。また、すでにBarcelona大学、Dalhousie大学、獨協医科大学、CARIFASによる足関節靱帯のbiomechanicsに関する共同研究もスタートしている。

CARIFASのセンター棟が建立されるのは平成30年夏頃の予定だが、これに先駆け足の外科の診療は本年4月1日から開始した。すでに関節鏡視下手術を行う設備は整えられており、今後は順次、PRP/BMAC、体外衝撃波等の最先端の医療設備が整えられる予定である。将棋の羽生善治永世名人の言に、「現状に満足した時点から後退は始まる」とある。CARIFASではこれを座右の銘とし、常に進歩を求め、この分野のさらなる発展のため尽力することを使命とする。

 

平成29年4月1日
CARIFAS 足の外科センター
所長 高尾昌人